2016/08/24


Bash on Ubuntu on Windows (以下 BoW) は Windows コマンドプロンプトを使って実行される。今までであれば Windows のコマンドプロンプトはエスケープシーケンスを認識しなかったので cmd.exe そのものでは vt100 等の端末環境を用意できませんでした。しかし Windows10 の cmd.exe では新しいコンソールモードが用意されています。

Console Virtual Terminal Sequences (Windows)

Virtual terminal sequences are control character sequences that can control cursor movement, color/font mode, and other operations.

https://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/windows/desktop/mt638032(v=vs.85).aspx

SetConsoleMode の第二引数に ENABLE_VIRTUAL_TERMINAL_PROCESSING を指定するとエスケープシーケンスを認識する様になります。Windows10 が当たり前の世の中になってきたら、ようやく Windows でエスケープシーケンスを使った CLI を実装できる様になります。それまで我慢できない人は ansicolor-w32.c を使うと良いです。

BoW ではこの新しい API のおかげでコマンドプロンプトを使って Linux の CLI を表現できている訳ですが、いかんせん完全ではありません。日本語を表示すると幅が合わず描画崩れを起こします。

BoW

これを見て「あぁ、msys2 は素晴らしい mintty は素晴らしい」と思う方も多いと思います。もしくはこれを見て BoW を使うのをやめる人もいるかもしれません。ただちょっとまって下さいよ。もし mintty の中で BoW が動いたら、しかも ssh 超しに使ったり Visual Studio Code の端末機能を使うといったナンチャッテハックをやる必要無かったとしたら、BoW 超便利だと思いませんか?以下でその方法をお教えします。まずこれからお伝えする環境を作る為にコンパイラが必要です。msys2 をお持ちならばそれをそのまま使って下さい。次に以下のリポジトリを git clone します。

GitHub - rprichard/wslbridge: Bridge from Cygwin to WSL pty/pipe I/O

wslbridge is a Cygwin program that allows connecting to the WSL command-line environment over TCP sockets, as with ssh, but without the overhead of configuring an SSH server.

https://github.com/rprichard/wslbridge

ビルドは mingw ではなく msys2 側でビルドして下さい。frontend を msys2 でビルドし、backend を BoW の中でビルドします。wslbridge は BoW の bash を起動すると共に backend を起動させてソケットを張り BoW の標準入出力とのパイプを作成します。そのパイプを msys2 の pty と繋げる事で msys2 レイヤと BoW を結び付け、如何にも msys2 の上で BoW が動いている様に見せるプログラムです。この wslbridge を mintty から起動すれば mintty の中で BoW が起動する、という仕組みです。mintty から wslbridge を起動するには以下の様に引数を指定します。

mintty -t "Bash on Ubuntu on Windows" -e c:/dev/wslbridge/out/wslbridge.exe

これをショートカットファイル等に指定すれば

BoW

すばらしいですね。かっこいいですね。画面崩れもありませんね。ちなみに以下の設定を行うと、エクスプローラのフォルダの右クリックから「Bash on Ubuntu on Windows」が選べる様になり、更に便利になります。

まずレジストリエディタを起動し、以下のキーを作成します。

HKEY_CLASSES_ROOT\Folder\shell\bow

右のペーンで「(規定)」の値に「Bash on Ubuntu on Windows」を入力します。

BoW

次にさらに下の階層に以下のキーを作ります。

HKEY_CLASSES_ROOT\Folder\shell\bow\command
「(規定)」に以下を設定します。 c:\msys64\usr\bin\mintty.exe -t "Bash on Ubuntu on Windows" -e c:/dev/wslbridge/out/wslbridge.exe

wslbridge へのパスは環境に合わせて設定して下さい。これでフォルダを右クリックして「Bash on Ubuntu on Windows」が表示される様になり、選択すると mintty が起動する様になります。

BoW
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2016/08/17


SSEを使ってHTMLエスケープを高速化してみた - k0kubun's blog

高速なHTMLエスケープをするライブラリを作った ある日HTMLエスケープを速くしたくなって、hescapeというライブラリを作った。 github.com とにかく速いHTMLエスケープがしたい R...

http://k0kubun.hatenablog.com/entry/hescape

以前、moznion 氏の petit-html-escaper を勝手に高速化した時の話。

GitHub - moznion/petit-html-escaper: A simple and small escaper for HTML with SSE4.2 function

Author moznion ( moznion@gmail.com ) mattn License The MIT License (MIT) Copyright © 2015 moznion, h...

https://github.com/moznion/petit-html-escaper

速くしたと言っても SSE 部分ではない。ベンチマークの比較元である非 SSE な実装の方。元のベンチマーク結果が README.md に残っている。

petit-html-escaper: 3.935205 [sec]
simple-impl: 5.634651 [sec]

petit-html-escaper is faster 143.185715% than simple implementation

以下がその時の比較元のコード。思いつくままに実装された単純なコードです。

static void simple_escape_html(char *dst, const char *input, size_t input_size) {
  for (int i = 0; i < input_size; i++) {
    const char c = *(input++);
    switch (c) {
      case '&':
        memcpy(dst, "&amp;"5);
        dst += 5;
        break;
      case '>':
        memcpy(dst, "&gt;"4);
        dst += 4;
        break;
      case '<':
        memcpy(dst, "&lt;"4);
        dst += 4;
        break;
      case '"':
        memcpy(dst, "&quot;"6);
        dst += 6;
        break;
      case '\'':
        memcpy(dst, "&#39;"5);
        dst += 5;
        break;
      case '`':
        // For IE. IE interprets back-quote as valid quoting characters
        // ref: https://rt.cpan.org/Public/Bug/Display.html?id=84971
        memcpy(dst, "&#96;"5);
        dst += 5;
        break;
      case '{':
        // For javascript templates (e.g. AngularJS and such javascript frameworks)
        // ref: https://github.com/angular/angular.js/issues/5601
        memcpy(dst, "&#123;"6);
        dst += 6;
        break;
      case '}':
        // For javascript templates (e.g. AngularJS and such javascript frameworks)
        // ref: https://github.com/angular/angular.js/issues/5601
        memcpy(dst, "&#125;"6);
        dst += 6;
        break;
      default:
        memcpy(dst, &c, 1);
        dst += 1;
    }
  }
  *dst++ = *"\0";
}

ソースも見渡しが良いし悪いコードではないと思いましたが、SSE だから速くなるという言葉にカッとして勢いだけでこの実装を直してみました。そのコードが以下。

static void simple_escape_html(char *dst, const char *input, size_t input_size) {
  const char *ptr = input, *end = input + input_size;
  const static int pp[UCHAR_MAX+1] = {
    0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,
    0,0,4,0,0,0,1,5,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,3,0,2,0,
    0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,
    6,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,7,0,8,0,0
    /* following zero(s) */
  };
  const static char* dd[] = {NULL"&amp;""&gt;""&lt;""&quot;""&#39;""&#96;""&#123;""&#125;"};
  const static int dl[] = {054465566};
#define _ESC_AND_COPY(d,s,n) { memcpy(d,s,n); d += n; }
  while (ptr < end) {
    unsigned char c = *ptr++;
    int i = pp[c];
    if (i == 0) *dst++ = c;
    else _ESC_AND_COPY(dst, dd[i], dl[i]);
  }
#undef _ESC_AND_COPY
  *dst++ = 0;
}

memcpy を相手にしても結果は変わらないので、処理分岐を相手にした。switch 文は遅くなるので文字の ASCII コードをインデックスに使い、置換すべき文字列とオフセットを得る処理です。

ベンチマークがどの様に変わったかというと。。。

petit-html-escaper: 4.954000 [sec]
simple-impl: 4.323000 [sec]
petit-html-escaper is faster 87.262817% than simple implementation

なんと非 SSE の方が速くなってしまいました。もちろん入力データによっては SSE を使って1命令で処理できるバイト数を増やす事は出来るのですが、switch 文や if 文を削るだけでも十分 SSE と戦えるという結果を出せました。現在このコードは moznion 氏の petit-html-escaper の比較元コードとしてマージされています。一部 macOSX で使われている CPU アーキテクチャでは若干 simple_escape_html の方が遅くなるケースがある様ですが、僕が調べた限り Windows/Linux では同程度か、このコードの方が速いという結果が得られました。

SSE に頼るのも良いけど、カリカリチューニングでもまだまだやれるんですよ。皆さん。

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2016/08/08


Gopher

僕がプログラミング言語「Go言語」を知り、使い始めてからそろそろ7年目に入ろうとしています。

当初 Google が作っているという鳴り物があった為、色々なメディアに取り上げられ色々な方がブログ等でGo言語を紹介し、色々な意見でGo言語が語られました。大抵の場合、プログラミング言語とは始めはチヤホヤと取り出され、落ち着いてからが本当の人気を表すという傾向にあります。皆さんもそう思っていたかもしれませんし、僕もそう思っていたと思います。

僕がGo言語を触りだした頃、まだ色々と足りない部分がありました。Linux で動いている多くの機能が Windows では未実装になっていました。しかしそんなGo言語であっても高速なビルドと実行速度で僕の好奇心を揺さぶるには十分な物でした。


その後、僕はGo言語にパッチを送る様になりました。その内幾らかはマージされました。現時点ではコアのリポジトリで79個のコミットがマージされていますが、マージされると今でも嬉しくなります。毎日朝にリポジトリを最新にしてビルドし、安定動作しているのを確認する日々が続きました。

気付いた頃には僕は新規で何かをプログラミングする場合には必ずGo言語で実装を始める様になっていました。

僕のこのサイトにも多くのGo言語の情報が書かれています。今では業務のプロダクションの一部にもGo言語を使っていますし、誰にも見せない様な個人のツールにもGo言語を使っています。

Go言語は僕にとって既に無くてはならない存在になってしまいました。

またGo言語にパッチを送った事で良い経験が出来ました。雲の上の人だと思っていた Rob Pike 氏や Russ Cox 氏、Brad Fitzpatrick 氏たちが僕の書いたパッチのレビューをしてくれたり、メールにコメントしてくれた時の事は今でも忘れられないくらい興奮したのを覚えています。そして彼らの適切すぎるソースコードレビューに感動したのも覚えています。正直いって彼らには敵いません。Go言語の開発者メーリングリストを見ていると自分の技術力との差に愕然とする事も多々あります。

そして次第に僕の周りでもGo言語が使われ始め、Twitter のタイムラインでもGo言語に関する発言が増えてきました。海外から比べると1年遅れていると言われていた日本企業でのGo言語導入も今では多くの有名企業がGo言語を採用しプロダクションでも利用される様になって来ました。僕がGo言語を作った訳ではないし大したパッチを送った訳では無いですが、昔を知っているだけにとても感慨深い思いです。

そろそろGo言語も一般のユーザに認知されてきたのだと思っています。そしてGo言語を操る有名なエンジニアも多く現れました。

そしてその彼らが1冊の本を書く事になりました。

みんなのGo言語【現場で使える実践テクニック】 みんなのGo言語【現場で使える実践テクニック】
松木雅幸, mattn, 藤原俊一郎, 中島大一, 牧 大輔, 鈴木健太, 稲葉貴洋
技術評論社 大型本 / ¥200 (2016年09月09日)
 
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技術評論社様から依頼を頂いた際には快諾させて頂きました。その際、執筆メンバの紹介をお願いされ、何名かをご紹介させて頂きました。結果見渡すと、Go言語界隈ではスターエンジニアと言ってもいい位に豪華なメンバが執筆に参加して頂ける事になりました。なかなかこの面子は集まらないと思います。

songmu さん、fujiwara さん、deeeetさん、lestrrat さん、suzuken さん、そして僕。計6が執筆メンバです。

彼らが元々Go言語の使い手では無かった事をご存じの方も多いと思います。Go言語の良いところも良くないところも知っているこのGo言語エンジニア達が現場で得たノウハウやテクニックを惜しげもなく書き連ねて下さっています。

僕も現場で得た開発テクニックやハマリ所などを書かせて頂きました。このブログでも出していないネタばかりです。他の執筆陣の方の記事も含め、Go言語を触った事がある方であればきっと面白いと思いながら読んで頂けると思っています。

「みんなのGo言語」というタイトルも皆で考え決めました。「みんGo」と呼んで下さい。そしてぜひお手に取って読んでみて下さい。

この本でGo言語を好きになってくれる方が少しでも増えてくれる事を、そしてこの本で誰かが抱えていた問題が少しでも解決する事を、一執筆者として願っています。

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